スクアーロがチェルベッ娘だった頭のおかしい設定ですので、嫌いな方はお戻りください。 大丈夫、私も頭は沸いている、という方はずずいっとスクーロール その日オレはオレになった。 2.監獄、囚人、命の日 気が狂いそうなほど真っ白な部屋に同じ顔がずらりと並んでいる。 年齢にばらつきはあるもののグロテスクなほどに眉の形目の形鼻の高さ唇の厚みに顔の輪郭まで完璧なまでに同型でその光景はシュールだった。 その蟻のような軍隊の前に立っていたザンザスは、隣にいる施設の責任者から好きな奴を選んでかまわないと言われていたが、どれを選んでも変わりは無いのがまるっきりわかってしまって興味がさめていく。 チェルベッロ機関の噂を聞いて適当な奴に問うてみた。それが耳に入ったらしい父親から興味があるなら見てきなさいと送り出され、もしなんだったら一人二人持って帰ってきて構わないとも言い含められたが、能面のように感情のない整った作り物の面貌に手に入れる気すら失せる。 陳列された人形軍と同じく無表情じみたの飼育者に、どれもいらねぇと言いかけたザンザスは列の最後尾中央、埋もれるようにして佇んでいる自分より幾つか年嵩の子供を見つけた。 「そいつでいい」 気付いたら言葉が勝手に飛び出していた。 だが撤回する気は起こらず、ザンザスはどれですかと聞き返す大人を押しのけ、さらに無味乾燥の少女人形たちを掻き分けて目的の人物の腕を掴み取る。 息を呑んで、眼球が零れそうなほど見開いた目で凝視してくる、たった今から未来永劫自分のものになった存在を一瞥もする事無く、ザンザスは傲然と言い放った。 「こいつに決めた」 まさかその相手を選ばれるとは思いもしなかった施設の職員がしかしとか問題がとか言い募るのを聞かず、9代目の令息は長い銀髪の持ち主をとっとと引き摺って歩き出す。欠陥品を連れ帰られ、問題でも起きたらと青褪めた男が、引きとめようと慌てて目の前に立ちはだかったので、邪魔をされたザンザスは幼さに反して既に兇器のような鋭さを持った目を眇めた。 選んだ子供のほそっこい骨と皮だけの腕を掴んだまま、彼は自由な片手で拳を作り、あまりの威圧感にひゅっと息を呑んだ男を、いとも容易く殴り飛ばして吐きすてた。 「うるせぇよ。しのごぬかすんだったら最初から混ぜておくなカス」 そのままザンザスが歩き出すと握った腕の持ち主は後ろを気にするような素振りを見せたが、それも一瞬ですぐにザンザスの背を見て大人しく着いてくる。 それに満足して偉大なるゴットファーザーの息子は足を速め、部屋と同じく真っ白な廊下を迷う事無く突き進み、扉一枚隔てた向こう側が施設の終わりという所でようやく立ち止まった。 後ろを着いて来ていた己よりも頭一つ分は上にある相手の顔を、ようやく向き合ってじっと眺めてから、ザンザスは口を開いた。 「名前をつけてやる」 居丈高なその言葉に、見上げる銀色の虹彩が途端にぎらぎらと輝きだした。 期待に満ちてそれが見下ろしてくるのに、ザンザスは放り投げるようにして音を羅列する。 「スクアーロ」 この瞬間から意味を持つ、音の連なり。 「てめぇの名だ」 反論はきかねぇとねめつける赤い瞳に与えられた、たった今から自分だけの物になった名前を何度も何度も繰り返し呟いて、孤ではなく全であった者は。スクアーロは、殴られて青く腫れあがった顔をぐしゃぐしゃに歪めて、全開で笑った。 切れた唇が引き吊れて痛いだろうに、そんなものは気にもならないと言わんばかりの、お世辞にも上品とはいえない満面の笑み。それに、ザンザスは強く握って捕らえていた腕を離し、スクアーロに背を向けた。 離した腕に未練は微塵もなく、着いてくるかどうかなどと言う不安は存在すらしない。 大股に漂白された床を踏んでいきながら、これからを思ってザンザスは唇を吊り上げた。 退屈はしない。 裏切りは無い。 スクアーロ それはザンザスのためにだけ在る絶対の名前だった。 2006.06.25 |